大和当帰とは?高品質で希少な歴史ある国産生薬「当帰」の歴史と効果効能を解説


「大和当帰ってどんなもの?」
「そもそも当帰ってなに?」

当帰は冷え性改善の生薬に用いられたり、婦人薬に配合されたりすることも多いため、名前だけは聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、当帰がどのような生薬で、大和当帰がどのような特徴を持つものか、具体的に理解している方は少ないのではないでしょうか? 今回は当帰の解説とともに、奈良県の伝承生薬である大和当帰について紹介します。

最後までお読みいただくことで、あなたの今後の温活にも役立つでしょう。

当帰とは?

当帰は、セリ科・シシウド属の多年草でセロリに似た香りを持ち、奈良県を中心に日本各地の薬園で栽培されてきました。

現代では当帰の根の部分が、神農本草経の中品に収録され、歴代の本草書に収載されている著名な生薬です。

一方で、当帰の葉の部分については非医扱い(医薬品ではない)とされています。

しかし、葉の部分もとても栄養価が高いため、健康に対する意識が高まる昨今では食事などで利用されるようになり、注目が集まっています。 ここでは、当帰の過去の歴史からその特徴について解説します。

 

当帰の歴史について

当帰の栽培の歴史は古く、江戸時代には近畿から以北の日本各地で、野生品や栽培品の産出があったと言われています。

現代の日本産当帰としては奈良、和歌山の土地を主として栽培される「ニホントウキ(ヤマトトウキ・オオブカトウキ)」と、北海道で栽培される「ホッカイトウキ」の二種類があります。

 

元々、日本では江戸時代末期まで、南部当帰、仙台当帰という名称で、今の岩手県、宮城県から野生のものを採取し出荷されていました。

また、新潟県の越後当帰や滋賀県の伊吹当帰も、それぞれ区別され採取されていました。当帰は当時から重要な生薬として多く利用され、そのことで取り尽くされてしまい、地方によっては絶滅してしまったところもあると言われています。

当帰の需要が高まる中で、日本のニホントウキは中国の四川省でも栽培されるようになり、四川省産のニホントウキが輸入されるようになりました。

そのことで、四川省産の価格の安い当帰が多く流通するように。また、当帰の中でも栽培がしやすいとされる北海当帰は、昭和に入り普及が急速に進んでいきました。

 

そして、中国産の価格の安い当帰の流通が増えたこと、収穫期間が早く栽培しやすいと言われる北海当帰が広く流通されるようになったこと、栽培のしやすい他の作物へ転作等が行われていった結果、栽培に手間がかかる大和当帰は生産量が大幅に減少。結果として大和当帰は、一時は奈良と和歌山の県境で、わずかに栽培されているだけの状況となりました。

 

現代は、大和当帰と比べて品質が劣ると言われる北海当帰は、近年の不人気で衰退傾向。北海道の薬草生産の存続にも影響を及ぼしかねない状況で、一層の普及に向けた取り組みが期待されています。 大和当帰においては、さらなる品種改良や作業用器械の開発などが進められており、国産生薬”大和当帰”の普及に向けた取り組みが活発になっています。

 

※当帰の葉は、従来は根とともに医薬品として登録されていました。しかし、平成24年以降から当帰の根のみが医薬品の対象となり、葉は「医薬効果を標榜しない限り医薬品としないもの」として対象から除外され、食用利用の普及が進んでいます。

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当帰の特徴は?

当帰は、茎は赤く葉は複葉で、縁にギザギザがあり高さは60?90cmほど。

夏から秋にかけて白い小花を付け、セロリに似た香りを持っています。 生薬には、湯もみなどの細かい作業を加え、乾燥させた根が用いられます。

主に冷え性、血行障害、強壮、鎮痛などに効果があると言われています。また、女性特有の悩みを改善する効果に強く、更年期、生理不順、生理痛などの症状にも用いられます。 当帰の語源は、「まさ(当)に帰る」

子宝に恵まれず里へ返された嫁が、当帰を摂り妊娠しやすい体調に整えて夫のもとへ帰る、という意味があると言われています。

そのことからも、女性の強い味方になるのが当帰、と考えられますね。

 

世界の当帰

当帰は西洋では「Angelica(アンゼリカ/アンジェリカ)」と呼ばれ、ヨーロッパでも昔から使われているハーブです。「Angelica」の語源は「Angel」、天使のように婦人の諸病に効く聖薬という意味と、天使のような子宝に恵まれる、という意味もあるようです。

現代でも、イギリスの健康食品店や薬局でも取り扱いがあるくらい、人気のある中医学のハーブとされています。

つまり、当帰は日本や中国などの東洋だけでなく、西洋でも同じ効用を持つものとして活用されてきた薬草と言えます。

 大和当帰

当帰の成分・効能

当帰は、乾燥させた根の部分は生薬として利用されますが、葉は平成24年より非医(医薬品ではない)扱いとされました。

葉の部分は独特の風味が特徴で栄養価が高いため、食事への利用に注目が集まっています。

ここでは、当帰の根と葉の両方に関わる、成分と効能について解説していきます。

①成分について

当帰の成分は、フタライドと呼ばれる「リグスティライド」と「ブチリデンフタライド」の二つが補血、血管拡張、強壮、鎮痛、鎮静、鎮痙などの主要な作用を示すとされています。

このような作用から、婦人薬、冷え症用薬、保健強壮薬、精神神経用薬、尿路疾患用薬等の処方に高頻度で配合されます。 また、当帰の葉については、ビタミンE、ビタミンC、βカロテン、カルシウム、葉酸、鉄分などの成分が、ほかの食材と比較して大変優れていることがわかっています。

そのため、料理のアクセントや香り付けの用途で、食用に活用される動きが広がっています。例として、当帰の葉を使った天ぷら、お茶、調味料、和洋菓子などが考案されています。

②効能について

当帰には、体を温めながら補血する(乾燥を改善し、血行を良くする)効能があり、安胎(妊娠に適した体内環境へ整え、妊娠中のトラブルを防ぐ)作用にも効果的とされています。

そのため、冷え性改善、血行改善、滋養強壮、鎮痛薬などに効く漢方生薬として、婦人病にも利用されています。

当帰の葉については、活性酸素から体を守る抗酸化成分や、美容や健康に役立つ栄養成分が豊富で、美肌や免疫機能のサポート、生活習慣病の予防、血液や血管の健康に効果があります。

 

国産生薬"大和当帰"とは

当帰などの生薬として用いられる薬草は、生育された場所や環境によって、薬効成分に違いがあります。

同じ品種であっても、産地が異なることで品質も異なるのです。 大和当帰は、さまざまな漢方薬に使用されている当帰の中でも、品質が高く最も優れた品種であると言われています。

その理由としては、森と清流が育んだ豊かな土壌、適度な寒暖差など、薬草栽培に適した自然条件に恵まれた奈良県の土地で栽培されるため、高品質が保たれているからです。

また、当帰は、江戸時代に全国各地で製薬材料の商業品種として栽培推奨されていたと言われており、産地ごとに大和当帰、越後当帰、仙台当帰などと呼ばれていました。

その中でも、奈良県五條市大深で栽培されていた大和当帰(大深当帰)は最高の品質として認められていたと言われています。

そのような高品質で評判の高い大和当帰ですが、栽培に大変手間がかかるため、近年では奈良と和歌山の両県境で、わずかに栽培されているだけになり衰退傾向にありました。

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奈良県産"大和当帰"復活に向けた取り組み

手間がかかり栽培が難しく、生産量が減少していた大和当帰は、奈良県「漢方のメッカ推進プロジェクト」として、行政や生産者、大学、製薬会社などその他民間企業が連携し、大和当帰の栽培や活用を広げるための活動が進められています。

「漢方のメッカ推進プロジェクト」は、漢方薬の原料となる生薬の生産拡大から、商品の製造・販売まで一貫した体制を構築するために、奈良県が主体となって平成24年から取り組みが開始されているものです。

大和当帰は、現在の五條市を中心に古くから盛んに栽培されてきたこともあり、優位性ある薬用作物として、特に普及に力が入れられています。

取り組みの例としては、生薬として用いられる根の部分は収穫が作付けから2年かかり北海当帰と比べて長期に及ぶこと、価格の面で中国産で価格の安い当帰に押されていたことから、栽培期間の短縮や栽培の省力化が進められています。

具体的には、栽培期間短縮のための品種改良などの研究開発、手間を削減するための作業用機械の開発などが挙げられます。 また、食用としての活用が期待される葉の部分について、成分の分析や効能の確認などの研究が行われるとともに、葉を使った各種商品が開発されました。

そのことで、現在では20社が40品目以上を一般食品として販売するようになるなど、普及に向けた取組みが進んでいます。 これらの取り組みが少しずつ浸透し、生産量が底であった平成23年から回復傾向になっています。

今後も、栽培技術の改善などにより一層の普及拡大が期待されています。

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